ヘアメイクアップアーティストは「盛り上げ屋」。現場がハッピーに終われれば、それに尽きる
モデル、タレント、俳優など様々な分野でトップを走る人物へ、ヘアメイクを施し本人の魅力を一層引き出すのが、ヘアメイクアップアーティストと呼ばれる人たちの仕事。
現場に素顔のまま入ってくる、モデルやタレントはその時点では、いわば真っ白のキャンバス。そのキャンバスの上に、ヘアメイクアップアーティストによって、魔法がかけられる。素材をわずか数秒で見定め、そこからある時は鮮やかに、ある時はありのままを生かしつつ、より魅力的に輝くように仕上げていく。
約40年に渡り、そんな魔法のような仕事をされているヘアメイクアップアーティストの中嶋竜司さんに、そのキャリアとクリエイティブの源泉などについて伺いました。
―20歳になる年にパリに渡ったそうですが、ヘアメイクアップアーティストを志して渡仏されたのですか?
【中嶋】:目的があったわけではなく、先輩がヨウジヤマモトのアシスタントをしていたので、追いかけて行ったような感じです。そのご縁で、パリコレのアルバイトをしたのですが、モデルさんが、とにかくカッコよくて衝撃を受けたんです。その現場でモデルさんの一番近くにいたのが、ヘアメイクアップアーティストだったんです。
モデルさんたちが、すぐそばにいるヘアメイクアップアーティストの手で綺麗になっていく。そこに感銘を受けて、僕も彼女たちの近くで仕事をしたいと思ったのが、この道を選んだきっかけです。
―パリと言えばファッションの本場なので、かなり貴重な体験もされたのではないですか?
【中嶋】:現場に行けば、有名なカメラマンやヘアメイクアップアーティストしかいない。仕事をするモデルもトップで、雑誌もトップ。その世界のときめくプロフェッショナルばかりなので、ただただ圧倒される日々の連続でした。
それから、運良く色々なことが繋がっていって、ハイブランドや有名なメゾンのショー、メジャーな雑誌のヘアメイクなどをやらせて頂きました。撮影現場だけではなく、ショーやコレクションにもアシスタントとして参加ができ、色々なメゾンのヘアメイクを体験することができたのは良かったですね。
―ヘアメイクアップアーティストと、ヘアサロンの美容師さんとではどんな違いがあるのでしょうか?
【中嶋】:ヘアサロンというのは、お客様と合えば関係性がずっと続くもの。お客様ファーストで、その人の持っているものをベースとして、生活パターンに合わせいくことが、ヘアサロンの美容師に求められるものだと思います。
ヘアメイクアップアーティストというのは、「デザイナーや編集のオーダーに対して、どう考えるか?」という所が大きいですね。撮影の時は、基本的には髪を切ることもないですし、染めたりパーマをかけたりもしません。美容室で汚された経験のある人はいないでしょうが、デザイナーなどから要望された場合には、ヘアメイクアップアーティストはモデルの顔を汚したりもします。
あとは、ショーに関していえば、トップのモデルさんはショーの出番の5分前にやって来たりするんです。その僅かな時間で、4~5人がかりでヘアメイクを施したりもしますから、ヘアサロンの美容師さんとは時間に対する考え方も違うかもしれません。
―40年に渡って、ヘアメイクアップアーティストとして活動されています。トレンドやテクノロジーの変化を色々と見て来られたのではないでしょうか?
【中嶋】:僕がはじめた頃は、フッション雑誌ではモデル達をメインにヘアメイクをしてきていましたが、日本はバブルの後ぐらいから、少しずつタレントさんがメインに変わっていきました。
タレントさんは、すでにポジションを確立されている方も多いので、モデルさんと比べるとヘアメイクが好き勝手に触れる部分は少なくなったかもしれません。とは言え、どこまで触っていいのか、どこまでヘアメイクを施すのかというのは、媒体によっても違いがありましたので、相手がタレントさんに変わったからという難しさはありませんでした。
―この40年は様々なところで、アナログからデジタルへの移行が進んでいく時期でもあったと思います。そういった部分への抵抗などは無かったですか?
【中嶋】:僕がはじめた時は、デジタルではなかった。デジタルでないというのは、写真でいうと「レタッチが出来ない」ということなので、技術で仕上げなければならないんです。僕たちは、レタッチをするという考えを持たずに育ってきた人間ですので、今でもレタッチをするということに抵抗がないわけではありません。と言っても、デジタルになって面白くなくなったというわけでも無いのですが、、、
デジタルになって出て来た凄い感性の人たちもいますし、カメラも性能が良くなって綺麗に魅せやすくなったとは思います。ただ、ヘアメイクに限れば、若い人たちの引き出しが少なくなってきたような感じはしています。修正がすごく簡単になったので、ベースの技術が育ちにくくなってきて、アマチュアとプロフェッショナルの差が分かりづらくなっているのかもしれません。
―具体的には、どういった部分なのでしょうか?
【中嶋】:アナログの時代は、“隠す”“強く出す”“色を出す”などを、ヘアメイクがその場で手作業でやっていたんです。それがデジタルだと、例えば「ここのオレンジ色が出ていないから、足しておいて」と言って、パソコン上で解決してしまう。
僕らは様々なものを使って、求められているオレンジを作らなければならなかった。例えば「唇の色が違う」と言われれば、自分で試行錯誤して、その色を作り出していった。とても苦労した部分でしたが、だからこそやり甲斐もあり楽しかったです。だけど、今はそこまでしなくてもよくなりましたよね。
この40年という歳月を振り返ってみると、僕が始めた頃にはスーパースターという人達が、沢山いらっしゃったんですよ。モデルはもちろん、カメラマンにもヘアメイクアップアーティストにもスーパースターがいて、そんな方々が色んな作品をつくって世に出していたんです。今と比べると、圧倒的に情報がない中、スーパースターたちがつくったものを見て「カッコいいなぁ」というような、喜びや衝撃を得る楽しさが常にありました。僕がこの歳になってくると、亡くなられている方もいらっしゃって、そんなスーパースターたちの存在感が、現在では希薄になっているのが寂しいですね。若い人たちには、僕が憧れたような世代の人たちの作品や歴史も知ってもらいたいですね。
―若い頃にスーパースターの作品から学ばれたように、ご自身の技術や感性のために、普段からされていることはありますか?
【中嶋】:一応、色んなものは見ていますが、そこまで意識をしてはいないですね。ファッション誌を見るのは面白いし、映画は時代をうまく表しているものなので、よく観ています。自分が若い頃に「絵を見ろ」「映画を観ろ」「建築をよく見ろ」ということを、よく言われてきましたので、無意識のうちに何かを見るという癖がついているような感じです。
あとは、今もファッションの現場などにも行ったりしているので、流行りはそこで把握できているところはあります。その流行りを感じて、「それならこっちの方向が良いな」とか、そういうアイディアは常に持っていますよ。
例えば、モダンなイタリアン家具の中に、着物を着た日本人を座らせたいとします。芸者さんのような女性を座らせるとして、顔は芸者さんらしくするけど、髪は独創的にイタリアっぽくした方が面白かったりするじゃないですか。こういうのもアイディアですよね。
―そうやって考えたアイディアが形になる場面も多いですか?
【中嶋】:今は、そういう創造性と向き合う仕事が減っているのは確かですね。僕がやりたかったのは、きゃりーぱみゅぱみゅさんみたいな事なんです。どうせやるのなら、独創的なことをやりたい。だけど、時代と共に幅は狭まっていますよね。
表現の幅の話をしましたが、へアメイクアップアーティストは若い人が目指しにくい構造的な課題もあるようにも感じています。俳優さんなどなら専属のヘアメイクアップアーティストが付いていて、その人と長く関係していたりしますし、スタイリストさんのように服を持って行ったり来たりといった体力も必要ないので、年を重ねても仕事がやりやすく、席が空きにくいんです。それに、広告でもギャラを削られやすい部分があるし、雑誌においてもギャラの相場が30年程前から変わっていなかったりもします。そういう背景もあって、若い人が憧れにくい仕事になっているのは、表現の幅が狭くなったのと、遠くでは繋がっているのかもしれません。
―プロフィールに「隠すのではなく素肌を引き出すナチュラルメイク、普段使っているアイテムでその人の良さを引き出す」というのが得意だと書かれていました。その人の良さというのは、どういう視点で見られているのでしょうか?
【中嶋】:それは、媒体によります。どういう写真を撮るのか、その媒体がどういうものを求めているのか、メインが洋服なのか化粧品なのかによっても違ってくるので、現場ごとに見方は変わってきます。
例えば、とても綺麗な着物を着ていれば、僕がいくら素顔主義だとしても、しっかり結い上げるでしょうし、古い感じで結い上げるのが面白い媒体もあれば、そうでない媒体もあります。だから、結い上げ1つにしても、しっかりとしたテクニックとアイディア、センスが必要だと思います。
今は、あまり濃いメイクをする時代ではないので、「素肌を生かして」というのは、トレンドを意識した言葉でもあります。基本的には、メイクをしていないように見せた方が良しとされていますけども、していないように見せるためには、実はするべきことが沢山あるんです。求めている写真に合う形で、素顔のように仕上げるには、やっぱりしっかりとしたテクニックとアイディアが必要になってくるんです。長くやってきた僕らは、その引き出しを数多く持っているのかなと思っています。
―ヘアメイクアップアーティストという仕事を、中嶋さんの言葉で表現するとしたら、どういう仕事でしょうか?
【中嶋】:僕が思うヘアメイクアップアーティストという仕事というのは「盛り上げ屋」。どれだけ盛り上げていけるか?ですかね。もうそれに尽きると思います。メイクをどう施すかだけではなくて、その現場がすごくハッピーで、楽しく終われれば良い世界ですかね。
モデルがいて、編集がいて、カメラマンがいて、スタイリストがいて……。色んな人がいる中で、結局はカメラマンとモデルがセッションをするんですが、そこと編集の間に入られる存在はヘアメイクアップアーティストだけなんです。昔は癖の強いカメラマンも多かったですし、モデルさんも緊張したりとか色々あったりすると思います。そんな現場で、盛り上げが出来て、モデルさんが気持ちよく居られるのが、僕が考えるヘアメイクアップアーティストとしての正解ですかね。
モデルのヨンアさんが、「来日当初、言語の壁に苦労していた時に、中嶋さんがいてくれて本当に良かった」というような事を言ってくれていて、それがすごく嬉しかったんです。自分がやっていたことが、良かったのだなと思えた瞬間でした。
現場に素顔のまま入ってくる、モデルやタレントはその時点では、いわば真っ白のキャンバス。そのキャンバスの上に、ヘアメイクアップアーティストによって、魔法がかけられる。素材をわずか数秒で見定め、そこからある時は鮮やかに、ある時はありのままを生かしつつ、より魅力的に輝くように仕上げていく。
約40年に渡り、そんな魔法のような仕事をされているヘアメイクアップアーティストの中嶋竜司さんに、そのキャリアとクリエイティブの源泉などについて伺いました。
トップモデルのカッコ良さに憧れて選んだヘアメイクの道
―20歳になる年にパリに渡ったそうですが、ヘアメイクアップアーティストを志して渡仏されたのですか?
【中嶋】:目的があったわけではなく、先輩がヨウジヤマモトのアシスタントをしていたので、追いかけて行ったような感じです。そのご縁で、パリコレのアルバイトをしたのですが、モデルさんが、とにかくカッコよくて衝撃を受けたんです。その現場でモデルさんの一番近くにいたのが、ヘアメイクアップアーティストだったんです。
モデルさんたちが、すぐそばにいるヘアメイクアップアーティストの手で綺麗になっていく。そこに感銘を受けて、僕も彼女たちの近くで仕事をしたいと思ったのが、この道を選んだきっかけです。
―パリと言えばファッションの本場なので、かなり貴重な体験もされたのではないですか?
【中嶋】:現場に行けば、有名なカメラマンやヘアメイクアップアーティストしかいない。仕事をするモデルもトップで、雑誌もトップ。その世界のときめくプロフェッショナルばかりなので、ただただ圧倒される日々の連続でした。
それから、運良く色々なことが繋がっていって、ハイブランドや有名なメゾンのショー、メジャーな雑誌のヘアメイクなどをやらせて頂きました。撮影現場だけではなく、ショーやコレクションにもアシスタントとして参加ができ、色々なメゾンのヘアメイクを体験することができたのは良かったですね。
―ヘアメイクアップアーティストと、ヘアサロンの美容師さんとではどんな違いがあるのでしょうか?
【中嶋】:ヘアサロンというのは、お客様と合えば関係性がずっと続くもの。お客様ファーストで、その人の持っているものをベースとして、生活パターンに合わせいくことが、ヘアサロンの美容師に求められるものだと思います。
ヘアメイクアップアーティストというのは、「デザイナーや編集のオーダーに対して、どう考えるか?」という所が大きいですね。撮影の時は、基本的には髪を切ることもないですし、染めたりパーマをかけたりもしません。美容室で汚された経験のある人はいないでしょうが、デザイナーなどから要望された場合には、ヘアメイクアップアーティストはモデルの顔を汚したりもします。
あとは、ショーに関していえば、トップのモデルさんはショーの出番の5分前にやって来たりするんです。その僅かな時間で、4~5人がかりでヘアメイクを施したりもしますから、ヘアサロンの美容師さんとは時間に対する考え方も違うかもしれません。
モデルからタレント、アナログからデジタル トレンドの移り変わり
―40年に渡って、ヘアメイクアップアーティストとして活動されています。トレンドやテクノロジーの変化を色々と見て来られたのではないでしょうか?
【中嶋】:僕がはじめた頃は、フッション雑誌ではモデル達をメインにヘアメイクをしてきていましたが、日本はバブルの後ぐらいから、少しずつタレントさんがメインに変わっていきました。
タレントさんは、すでにポジションを確立されている方も多いので、モデルさんと比べるとヘアメイクが好き勝手に触れる部分は少なくなったかもしれません。とは言え、どこまで触っていいのか、どこまでヘアメイクを施すのかというのは、媒体によっても違いがありましたので、相手がタレントさんに変わったからという難しさはありませんでした。
―この40年は様々なところで、アナログからデジタルへの移行が進んでいく時期でもあったと思います。そういった部分への抵抗などは無かったですか?
【中嶋】:僕がはじめた時は、デジタルではなかった。デジタルでないというのは、写真でいうと「レタッチが出来ない」ということなので、技術で仕上げなければならないんです。僕たちは、レタッチをするという考えを持たずに育ってきた人間ですので、今でもレタッチをするということに抵抗がないわけではありません。と言っても、デジタルになって面白くなくなったというわけでも無いのですが、、、
デジタルになって出て来た凄い感性の人たちもいますし、カメラも性能が良くなって綺麗に魅せやすくなったとは思います。ただ、ヘアメイクに限れば、若い人たちの引き出しが少なくなってきたような感じはしています。修正がすごく簡単になったので、ベースの技術が育ちにくくなってきて、アマチュアとプロフェッショナルの差が分かりづらくなっているのかもしれません。
―具体的には、どういった部分なのでしょうか?
【中嶋】:アナログの時代は、“隠す”“強く出す”“色を出す”などを、ヘアメイクがその場で手作業でやっていたんです。それがデジタルだと、例えば「ここのオレンジ色が出ていないから、足しておいて」と言って、パソコン上で解決してしまう。
僕らは様々なものを使って、求められているオレンジを作らなければならなかった。例えば「唇の色が違う」と言われれば、自分で試行錯誤して、その色を作り出していった。とても苦労した部分でしたが、だからこそやり甲斐もあり楽しかったです。だけど、今はそこまでしなくてもよくなりましたよね。
この40年という歳月を振り返ってみると、僕が始めた頃にはスーパースターという人達が、沢山いらっしゃったんですよ。モデルはもちろん、カメラマンにもヘアメイクアップアーティストにもスーパースターがいて、そんな方々が色んな作品をつくって世に出していたんです。今と比べると、圧倒的に情報がない中、スーパースターたちがつくったものを見て「カッコいいなぁ」というような、喜びや衝撃を得る楽しさが常にありました。僕がこの歳になってくると、亡くなられている方もいらっしゃって、そんなスーパースターたちの存在感が、現在では希薄になっているのが寂しいですね。若い人たちには、僕が憧れたような世代の人たちの作品や歴史も知ってもらいたいですね。
―若い頃にスーパースターの作品から学ばれたように、ご自身の技術や感性のために、普段からされていることはありますか?
【中嶋】:一応、色んなものは見ていますが、そこまで意識をしてはいないですね。ファッション誌を見るのは面白いし、映画は時代をうまく表しているものなので、よく観ています。自分が若い頃に「絵を見ろ」「映画を観ろ」「建築をよく見ろ」ということを、よく言われてきましたので、無意識のうちに何かを見るという癖がついているような感じです。
あとは、今もファッションの現場などにも行ったりしているので、流行りはそこで把握できているところはあります。その流行りを感じて、「それならこっちの方向が良いな」とか、そういうアイディアは常に持っていますよ。
例えば、モダンなイタリアン家具の中に、着物を着た日本人を座らせたいとします。芸者さんのような女性を座らせるとして、顔は芸者さんらしくするけど、髪は独創的にイタリアっぽくした方が面白かったりするじゃないですか。こういうのもアイディアですよね。
―そうやって考えたアイディアが形になる場面も多いですか?
【中嶋】:今は、そういう創造性と向き合う仕事が減っているのは確かですね。僕がやりたかったのは、きゃりーぱみゅぱみゅさんみたいな事なんです。どうせやるのなら、独創的なことをやりたい。だけど、時代と共に幅は狭まっていますよね。
表現の幅の話をしましたが、へアメイクアップアーティストは若い人が目指しにくい構造的な課題もあるようにも感じています。俳優さんなどなら専属のヘアメイクアップアーティストが付いていて、その人と長く関係していたりしますし、スタイリストさんのように服を持って行ったり来たりといった体力も必要ないので、年を重ねても仕事がやりやすく、席が空きにくいんです。それに、広告でもギャラを削られやすい部分があるし、雑誌においてもギャラの相場が30年程前から変わっていなかったりもします。そういう背景もあって、若い人が憧れにくい仕事になっているのは、表現の幅が狭くなったのと、遠くでは繋がっているのかもしれません。
中嶋さんが考えるヘアメイクアップアーティストとは
―プロフィールに「隠すのではなく素肌を引き出すナチュラルメイク、普段使っているアイテムでその人の良さを引き出す」というのが得意だと書かれていました。その人の良さというのは、どういう視点で見られているのでしょうか?
【中嶋】:それは、媒体によります。どういう写真を撮るのか、その媒体がどういうものを求めているのか、メインが洋服なのか化粧品なのかによっても違ってくるので、現場ごとに見方は変わってきます。
例えば、とても綺麗な着物を着ていれば、僕がいくら素顔主義だとしても、しっかり結い上げるでしょうし、古い感じで結い上げるのが面白い媒体もあれば、そうでない媒体もあります。だから、結い上げ1つにしても、しっかりとしたテクニックとアイディア、センスが必要だと思います。
今は、あまり濃いメイクをする時代ではないので、「素肌を生かして」というのは、トレンドを意識した言葉でもあります。基本的には、メイクをしていないように見せた方が良しとされていますけども、していないように見せるためには、実はするべきことが沢山あるんです。求めている写真に合う形で、素顔のように仕上げるには、やっぱりしっかりとしたテクニックとアイディアが必要になってくるんです。長くやってきた僕らは、その引き出しを数多く持っているのかなと思っています。
―ヘアメイクアップアーティストという仕事を、中嶋さんの言葉で表現するとしたら、どういう仕事でしょうか?
【中嶋】:僕が思うヘアメイクアップアーティストという仕事というのは「盛り上げ屋」。どれだけ盛り上げていけるか?ですかね。もうそれに尽きると思います。メイクをどう施すかだけではなくて、その現場がすごくハッピーで、楽しく終われれば良い世界ですかね。
モデルがいて、編集がいて、カメラマンがいて、スタイリストがいて……。色んな人がいる中で、結局はカメラマンとモデルがセッションをするんですが、そこと編集の間に入られる存在はヘアメイクアップアーティストだけなんです。昔は癖の強いカメラマンも多かったですし、モデルさんも緊張したりとか色々あったりすると思います。そんな現場で、盛り上げが出来て、モデルさんが気持ちよく居られるのが、僕が考えるヘアメイクアップアーティストとしての正解ですかね。
モデルのヨンアさんが、「来日当初、言語の壁に苦労していた時に、中嶋さんがいてくれて本当に良かった」というような事を言ってくれていて、それがすごく嬉しかったんです。自分がやっていたことが、良かったのだなと思えた瞬間でした。
この記事のゲスト
中嶋竜司
国内外、多くの著名人を手掛けるヘアメイクアップアーティスト。その人自身が魅力的になるようなメイク、隠すのではなく素を引き出すナチュラルメイクに多くの支持を集め、メイクの本質を多くの女性に届けるために幅広く活動。
フリーランス契約のヘアメイク6名と共にTVCM、広告をはじめ、イベント、 ライブツアー、PV撮影、番組収録から、HERMES、アニエスベー、RalphLauren、FENDI、GUCCIなどのファッションショーも手がけるほか、「UUUNI 」「Feel the HALO」といったコスメブランドの監修も務める。